漫画 味いちもんめ 全33巻を読了した

私は(偏った)情報収集のためにTumblrを続けているのですが、そこでたんぶらこ~たんぶらこ~と流れてくるリブログで知る著作物は結構な数にのぼります。

今回の漫画も過去に少しだけ読んだことはあったものの、ちょっと前にTumblrでとあるページ(ワサビと醤油の使い方)のリブログが流れてきたことから、これをきっかけとして最初からきちんと読んでみることにしたのです(kindle版を読みました)。


本作は、京料理を中心とした一流の素材による一流の料理とサービスを堪能できる新宿の料亭「藤村」と、その厨房の人たち、そして様々な客との人間模様を描いているのですが、

とにかくこの漫画は「実直」!
その感想に尽きます。

派手さはほとんどないのですが、料理への想いは他の料理漫画と比べてもかなりなものです。


昔ながらの板前制度の下で働く料理人たちは、料理長となる花板やその次の地位となる立板に、ときには叱られ、ときには殴られながらも、料理の腕前の熟練と人間的成長を遂げていくのですが、その様子の描写には、常に料理への愛が溢れていることを強く感じました。

花板の熊野さん(親父さん)は、自身がかなり厳しい料理修行を受けてきて、プロの料理の世界の難しさと厳しさを体験しており、それを部下の料理人たちにも実践するのですが、意味もなく感情だけで怒るようなことはなく、よりよい料理の実現のためにこそ部下たちに「アホー!」と厳しく接します。

それを受けて、部下の面々も、「馬鹿野郎っ!」とより下の者を大声で叱ります。
しかし、それは厳しい親父さんから受けた叱責の鬱憤を晴らしたいからではなく、親父さんの意図を汲み取っているからこそです。時には怒りすぎて暴走しそうになったりもしますが、それを諫めるのもまた親父さんだったりします。

いずれにしても、僅かなミスも許されず、日々厳しい料理労働と、安い(と思われる)給料でも藤村から料理人が一人も逃げ出さないのは、ひとえに親父さんの、素材と料理への深い理解とこだわりがあってこそです。
だからこそ、立板も煮方も焼方も揚方も追い回しもそれぞれの立場に納得して、全力で対応できるのです。


こうした、料理人の上の者から下の者への厳しい対応には意味があることを、読んでいくなかで多くの方が実感できると思います。ただ不味くなるだけならまだしも、例えば、この業界がもっとも恐れる食中毒への防止のためには、優しい対応はまるで無意味だからです。

それに、やはり不味いのは、いや、一流と名の通っている藤村では、美味しくないのは論外だし、そこそこ美味しいくらいは到底容認できるものではないのです。

それは、店の、あるいは板前としてのメンツもあるし、何より高い料金設定(コースは安くても8千円から、本作の後半からは1万円から)をしている以上は、ネームバリューや新宿という土地柄だけではなく、その仕上がった料理が「完璧に」「最上に」美味い、ことが必須だからです。

それ故の、そのこだわりを日々続けているからこその「一流」であることを本作は読者に訴え続けます。
場所が、ブランドが、価格が一流を作っているわけではないことを著者は作品の中で読者に知らしめているのです。


ストーリーは各話読み切りスタイルで、話の中には、他の料理店のことに触れていることも少なくないのですが、その中で、良い店とは何か、良い料理とは何か、良い客への対応とは、あるいは良い客とは、等について対比しており、藤村の料理人だけでなく、読者も一緒にそのことに気づけるようになっているのは面白い作りだと思います。

そうしたストーリーの進め方で、読者は単に素材の名前とか料理の名前という知識が浅薄に蓄積していくのではなく、素材とは、料理とは、味とは、四季とは、そして日本とはの各々について理解を深めていくことができるのです。
本作をただ読み流すだけでも、食とそれにまつわる日本について、しっかりとした「蘊蓄」を積み重ねていくことができるのです。


なお、本作は、ストーリーとして完結することなく、突然ぷつっと終了してしまうのですが、それは原作者のあべ善太さんが51歳の若さで急逝されたことに依ります。

なんでも、あべさんは、国語の高校教師との掛け持ちで(!)原作の提供を続けてこられたらしく……
まあかなり無理をされたのだろうと推測します。

それにしても、あべさんはてっきり現職の料理人の方だとばかり思っていたので、国語教師でここまでしっかりした(あべさんへのファンからのレターにはほとんどクレームがなかったそうです)内容にしてしまうとは、ただただ恐れ入るばかりです。料理人の監修もないようですし…

料理や料理界への表現でクレームがないほどの内容にするにはよほどの取材と理解の蓄積がないとできないはずで、その素晴らしいクオリティの保持に、あべさんは自らの肉体を捧げてしまわれたのかもしれないですね。


なお、本作の人気を受けて、なのでしょう、原作者が別の人になって、本作のシリーズは続いています。
私も藤村で働く人々の成長が気になるので、続けて他の「味いちもんめ」シリーズも読んでいくつもりです。
最初は追い回しから始めた主人公格の伊橋君が花板として活躍するシリーズとかめっちゃ気になるので、これからも読んでいくのが楽しみです。

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